‘リトルマガジン’ タグのついている投稿

百年の一念

2010年6月22日 火曜日

posted by 樽本樹廣(百年)

「書物を契機としてコミュニケーションを媒介し、それによってコミュニティを生成・確認・維持・展開していく一連の営みである」(長谷川一『出版と知のメディア論 エディターシップの歴史と再生』みすず書房 2003)

これは出版についての定義だが、そのまま本屋についての定義でもあり、百年のしたいことである。本屋は本を媒介にして、お客さんとの知的・文化的コミュニティを築く場所であるはずだし、そうなりたいと思う。

OLD / NEW SELECT BOOKSHOP 百年は2006年8月にオープンし、もうすぐ4年が経つ。新刊書店に5年ほど働いているうちに、自分のやりたいことからどんどん離れていると感じて、それなら自分で理想の本屋をやろう、と決意した。27歳のときだ。古本と新刊本・リトルプレスを主に扱っている。多くの人に面白がってもらい、おかげさまで順調に成長させていただいている。

新刊書店、古本屋とも棚作りによってお客さんとのコミュニケーションはできる。棚を見て、ここにこの本があるのか、この本を仕入れているのか、この見せ方はすごい、など書店員の編集能力によって棚の面白さが変わってくる。その棚に反応するお客さんは常連さんになるし、ピンとこないようだと離れてしまう。お客さんが何を求めているかを想像するのも大事だし、それに合わせて書店員の能力も試される。この攻防こそがお客さんとのコミュニケーションだし、日々の書店業務の楽しさでもある。

古本屋ではそれに加えて本の買取りがある。お客さんの本に価値を決め、それに対価をお支払いする。定価による一律的な判断ではなく、その本がいま読まれるべき本なのかどうかを見極める。お金のやりとりという直接的なコミュニケーションをすることで、より信頼関係が生まれていく。そのためには誠実でなければならない。その誠実さは、接し方はもちろんだが、眼に見える「お金」によって判断されるだろう。千円で買われて一万円で売られていたらいい気持ちはしないはずだ。ここまでじゃなくてもこれに近い経験をした人は少なくないんじゃないだろうか。

創業4周年を記念してリニューアルされた「百年」のウェブサイト。

創業4周年を記念してリニューアルされた「百年」のウェブサイト。

コミュニケーションする本屋、という考えをHPでも実践しようとリニューアルした(商品登録数を増やすための容量アップという実務的な理由もある)。旧HPとの違いは「パブリック・リレーションズ」が加わったこと。広告の意味でのPR(public relations)はもちろんあるが、それが第一義ではなく、百年の考えや興味を知ってもらい、その反応を受け取って、よりよい本屋を目指すためのページになっている。

いまは僕とスタッフのブログだけだが、今後は本や本屋にまつわるインタビューなども掲載していこうと思っている。「パブリック」には公共的な、よりひらかれたスペースでありたいという願いと「パブリック」のなかに含まれる「ブック」を通してたくさんの人と関係していきたいという願いがある。

(続きを読む…)

Post to Twitter Tweet This Post

ソーシャルメディア時代に言説のハブを作る

2010年5月9日 日曜日

posted by 西田亮介(.review代表)

「project.review」という企画が、出版業界の片隅で活発に活動を行っている。「.review」は、「ドットレビュー」と発音する。「review」とは「見直し」や「批評」という意味。「インターネット」を意味する「.」(ドット)と相まって、2010年代の新しい情報環境を駆使して言論活動を行う、僕が主催するプロジェクトだ。

最初に、ごく簡潔に自己紹介させていただくと、僕は地域社会論、非営利組織論と周辺の政策を専門にしていて、慶應義塾大学政策・メディア研究科の博士課程に籍を置きながら、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターのリサーチャー(ここでは、大学発ベンチャー起業促進や、中小企業向けソーシャルメディアマーケティングの調査研究をやっています)や、東洋大学で非常勤講師の仕事をしている。そして、縁あって、専門分野に加えて、教育論、電子メディア論などについて、商業媒体や行政などでも仕事をさせていただいている。

ウェブやtwitterで募った論文のアブストラクトが多数アーカイブされている。

ウェブやtwitterで募った論文のアブストラクトが多数アーカイブされている。

.reviewに話を戻すと、このプロジェクトは、昨年9月に立ち上げた「現代のコミュニティ研究会」がきっかけになっている。この研究会は、いろいろな大学で、多様なバックグラウンドをもつ博士院生〜学部学生たちを集めて、「コミュニティ」を考えることで、コミュニティを作ることを目的としている。要は、20代で研究者や物書きを目指している人間たちが広く緩やかに集まっているというわけだ。この研究会で、2010年代の情報環境にふさわしいアウトプットの形を考えていくなかで、昨年末にproject.reviewははじまった。

.reviewは、2つのミッションを掲げている。ひとつが、「研究者と書き手、それぞれの予備軍の社会的認知のきっかけをつくる」で、もうひとつが「あらゆる知を媒介する新しいハブとなる」だ。

今さら注釈を添えるまでもないが、出版業界は未曾有の不況に襲われ、ここ数年廃刊・休刊が相次ぎ、長い伝統を誇る媒体でさえ存続が危ぶまれている。その結果、これまで若手の研究者や書き手の登竜門となってきた媒体も次々と姿を消していった。

また、僕たちを取り巻く環境に目を向ければ、博士課程修了者の就職率はおよそ6割。専任非常勤、不明瞭な「国際水準」を巡って右往左往する文部科学行政など、不透明で雲行きの怪しい要素をあげれば枚挙に暇がない。 

(続きを読む…)

Post to Twitter Tweet This Post

〈ミニコミ2.0〉とはなにか?

2010年1月25日 月曜日

posted by 武田俊(KAI-YOU代表)

はじめまして。KAI-YOUという、ミニコミ誌の制作やイベントの企画を行っている組織の代表をしております、武田俊と申します。今回は、以前の仲俣暁生さんの記事「リトルマガジンのゆくえ」に対して、その作り手の立場から何か答えるというような形式で書かせて頂こうと思っています。

といっても具体的には何をやっている人間なのか、という疑問を持たれることと思いますので、簡単に自己紹介をさせていただきます。

これまでのKAI-YOUの主だった活動としては、「世界と遊ぶ文芸誌」といういささか大仰なキーワードのもとに動いているミニコミ文芸誌『界遊』の制作と、それに関係するイベントの企画・運営が挙げられます。そして昨年の11月からは、〈ミニコミ2.0〉というタイトルを掲げていくつかの企画を行ってきました。

あえて「ミニコミ」と口にしてみる

〈ミニコミ2.0〉企画は、奇しくも昨年休刊となってしまった『STUDIO VOICE』のウェブサイトである「STUDIO VOICE ONLINE」内のコンテンツから始まり、ジュンク堂書店新宿店に企画を持ち込み行ったフェア、フェア担当の書店員・阪根正行さんとの対談記事、そして批評家/編集者である宇野常寛さんと、ライター/編集者の速水健朗さんによるトークイベント、といったようにウェブとリアルを往復するような形で展開させていきました。

ジュンク堂書店新宿店で行われた、〈ミニコミ2.0〉フェアの展示風景。

ジュンク堂書店新宿店で行われた、〈ミニコミ2.0〉フェアの展示風景。

ここでポイントとなるのは、いまなぜミニコミ誌なのか、ということです。もちろんミニコミ誌というメディアは今に始まったものではありません。ビートニクと呼ばれてきたような詩人や作家たちが自らの本を手作りで世に届けたものもそうですし、ファンジンや同人誌といったようなものも当てはまります。一言でまとめてしまえば、マスコミュニケーションという大きな存在に対して、カウンターとして振る舞い存在するインディーズメディアと呼ぶことができます。ミニコミュニケーション、という略される以前の言葉自体を考えればもっともな話です。

(続きを読む…)

Post to Twitter Tweet This Post

リトルマガジンのゆくえ

2009年11月5日 木曜日

posted by 仲俣暁生(「マガジン航」)

論創社のウェブサイトで連載されている、小田光雄氏の「出版状況クロニクル」が更新されていたのでさっそく読んでみました。小田氏は『出版社と書店はいかにして消えていくか』をはじめとする著作で、早くから日本の出版流通が抱える構造的な問題を指摘してこられた、在野の出版研究者です。

「出版状況クロニクル」は、2001年から07年にかけて出版界に起きた大きな出来事を逐次的にまとめた著作『出版業界の危機と社会構造』のあとを受け、日々報じられる出版関連のニュースや統計データを分析するなかから、出版業界が直面している危機の本質をネット上で随時報告するという貴重なレポートで、本や出版の問題に関心をもつ人は必読です。

10月の話題をまとめた最新回では、ビジネス誌やニュース誌が伝える新聞・出版業界の苦境や、成長を続けるグーグルの話題などにまじって、二つのリトルマガジンにまつわる記述が目につきました。ひとつは古書専門誌『彷書月刊』が、来年10月をもって休刊するという知らせ。1985年に創刊された同誌は2010年10月号で300号を迎えるそうで、これを区切りとして刊行を止めるというのです。

(続きを読む…)

Post to Twitter Tweet This Post