我はいかにして電子書籍の抵抗勢力となりしか

2010年8月9日
posted by 中西秀彦 (中西印刷株式会社専務取締役、日本ペンクラブ言論表現委員)

「活字が消えた日」

すこし時代を遡る。私の原点は「活字が消えた日」である。私の経営する会社は4代前の先祖が幕末に京都で木版印刷の会社を創業し、明治のはじめに当時のハイテクであった活版印刷に進出して以後ほぼ百年間、「活版の中西」として全国的にも知られた存在だった。その中西が活版をやめ、電子組版に移行するというのは当時の大事件で、活版最後の日にはテレビが取材にきたりもした。

この活版から電子組版への移行経緯を、「マガジン航」でもおなじみの津野海太郎氏のすすめで本として出版した(『活字が消えた日』晶文社刊 1994)。当時、好評をもって迎えられ、版を重ねた。今でも活版から電子組版への移行時期について詳細に記した基本文献として読み継がれているようだ。

その出版のころ津野氏と語り合ったものだ。「いずれは『本が消えた日』を書かなければならないだろう」と。そのころにはまだインターネットこそ、一般的ではなかったが、パソコン通信は普及しており、パソコン通信で本を読むという形態がそれほど抵抗なくうけいれられていた。失敗は続いていたが、NEC のデジタルブックのような電子書籍もすでに商品化されていた。たぶん、それほど遠くない未来、電子書籍の時代は来る。それはもう必然のように感じられた。

しかし、当時、電子書籍事業にのりだすことはなかった。電子書籍時代は来るとしても、もうすこし先、すくなくとも電子組版設備とそれを紙に印字するための平版印刷機械の減価償却がすんだあとであろうと予測していた。それより会社は活版から電子組版にいたる過程で設備投資や職人の転職費用などで、金をつかいはたして、とても電子書籍どころではなかったのである。

先行事例としての「オンラインジャーナル」

だが、時代は容赦しない。21世紀のはじまりとともに。インターネットの大波はまず、学術雑誌の分野をのみこみはじめた。オンラインジャーナルである。理系の英文誌はことごとくオンライン化され、紙の雑誌が発行されなくなった。発行されたとしても部数は大幅に減っていった。だが、これはある意味、チャンスでもあると思った。私は当時イギリスのオックスフォードユニバーシティプレスと提携し、積極的なオンラインジャーナル商売にのりだした。そして、やがてやってくる電子書籍ビジネスを展開することも模索し始めた。未来は電子にこそあると思っていた。

だが、オンラインジャーナル商売は紙の印刷を代替するほどの利益をもたらさないのだ。印刷会社は紙に刷ることで、利益の大部分を稼いでいる。印刷には、原稿を本のかたちにととのえる組版部門と、組版された原版を印刷製本する部門がある。オンラインジャーナルは前半の組版部門こそ同じように機能するが、印刷が必要ない。後半の印刷部門の設備も人員も活かすことはできない。しかも、印刷会社ではこの後半部分が稼ぎ出す割合の方が大きいのだ。オンラインジャーナルだけで印刷も含めた売り上げを稼ぎ出すには、よほど多くのオンラインジャーナルを受注しなければならない。まずいことに、英文オンラインジャーナルの生産拠点はどんどんインドに移っている。人件費がインドの20倍もかかる日本の印刷会社に発注してくれる酔狂な出版社はない。

おそらく電子書籍でも同じことがおこる。極端な話、印刷業界は書籍が紙に印刷されなくなったとき、壊滅する。印刷部門がまったく必要なくなってしまうからだ。出版社はコンテンツビジネスとして生き残れても我々は生き残れない。幸運な数社は電子書籍コンテンツ制作会社として残るかもしれないが、ほとんどの印刷会社はなすすべがない。

これでは電子書籍に抵抗するなという方が無理だ。確かに今まで産業転換の前に消えていった業界は数多い。それは新しい技術が普及するときのやむをえない犠牲だという話も聞く。しかし、思い出してほしい。みんなおとなしく滅んでいったわけではない。農産物自由化に対する農業団体の抵抗はすさまじかったし、激烈な労働争議のはてに炭鉱事故に見舞われた末期の石炭産業も歴史に残る。電子書籍側が対応を誤れば、電子書籍化による印刷産業消滅は政治闘争となりうる。その間に日本の電子書籍は世界から一周も二周も遅れ、とりかえしがつかなくなるだろう。

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熱い図書館への誘い

2010年8月5日

posted by 岡本真(ACADEMIC RESOURCE GUIDE編集長)

「マガジン航」の読者の方々であればお気づきかもしれませんが、いま、図書館の世界が熱い状況になっています。たとえば、つい先日の7月24日(土)は、図書館を巡る最近の熱気を感じさせる1日でした。この日大阪で、「〈図書館〉をキーワードに、図書館で働く人も、そうじゃない人も、あつまって飲みませんか」という呼びかけのもとに開かれた「図書館のむ会@大阪」に60名もが集まりました。それだけではありません。これに呼応するように行われた「横浜市内図書館的施設ツアー&図書館をネタに飲む会@横浜」には40名が、「図書館のむ会@仙台」でも10名ほどが、さらに当日外出できない方々を中心に「図書館のむ会@ウェブ」という一人家飲みの会まで開かれたのです。

横浜市内図書館的施設ツアーの一コマ。新聞ライブラリー、放送ライブラリーがある情報文化センターにて

横浜市内図書館的施設ツアーの一コマ。新聞ライブラリー、放送ライブラリーがある情報文化センターにて

当日、「図書館」をキーワードに日本全国でオンライン、オフラインに集ったのは100名を優に超えています。ただの飲み会とはいえ、そして当日が全国的にビールの美味しい天気だったとはいえ、ちょっと驚異的な出来事ではないでしょうか。

図書館が熱い理由

もちろん、図書館に関心を持つ人々はただ飲むのが好きなわけでも、日々飲み歩いているわけではありません。このような催しと併行して、様々なネットワーキングの動きが最近とみに盛んです。

たとえば、2008年に「図書館員の部活動」を標榜して始まったLifoというグループは、「遠足」と称して定期的に日本各地の図書館的施設を巡り、定例会と称する勉強会を続けています。また、今年の6月末には、図書館情報学若手の会ALISという組織が結成されています。こちらは図書館情報学を学ぶ学生や院生を中心とした大学横断的な試みで、6月27日に筑波大学で開催された第1回の定例会では現地参加者25名に加え、USTREAMの視聴者が70名にも及んでいます。

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パネルディスカッション「電子図書館の可能性」

2010年7月30日

posted by 仲俣暁生

7月16日に国立国会図書館関西館にお招きいただき、「電子図書館の可能性」というテーマの講演会に参加してきました。長尾真氏(国立国会図書館長)、大場利康氏(NDL関西館電子図書館課長)、藤川和利氏(奈良先端科学技術大学院大学准教授・電子図書館研究開発室長)がそれぞれプレゼンテーションを行い、最後に私を加えた4名でパネルディスカッションも行われました。

国立国会図書館関西館の正面エントランス

国立国会図書館関西館の正面エントランス

会場は来場者でほぼ満席。

会場は150人もの来場者でほぼ満席。

当日の討議内容については、カレント・アウェアネス・ポータルのサイトで概要が紹介されていますので、そちらをぜひご参照ください。また映像による中継をみていた方によるツイッターのまとめサイトをご覧いただくと、当日の雰囲気を感じることができると思います。

さて、この日に私が提起したいくつかの問題について、長尾国立国会図書館長より、当日はパネルディスカッションで相互討議の時間が十分にとれなかったため、インタビューに答えたいとの申し出をいただきました。そこで、あらためて長尾館長にインタビューし、お考えを伺いました。

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Eブック版権をめぐるエージェントと出版社のバトル

2010年7月27日

posted by 大原けい (Lingual Literary Agency, NewYork)

アメリカ人が出版関連の利権で訴訟を起こしたり、ボイコットしたりしているのは死闘のバトルをやっているんじゃなくて、お互いに納得のいく着地点を探してプロレスごっこしてるだけ、なーんてことを以前に書いたので、なんだかオオカミ少年になりつつある気もしないではないが、またしても電子書籍をめぐってバトルが始まった

今度はエージェントが大手出版社が抱える大物作家のEブック専門出版社を作り、アマゾンと専属契約を交わしてしまった、というニュース。報復措置として出版社側は、そのエージェントが担当する新人や新しい企画のボイコットをはじめた、というものだ。

電子化されるのは綺羅星のような名作ばかり

さて、このバトルで赤コーナーに立つのは、ICMやウィリアム・モリスと並ぶ大御所のアンドリュー・ワイリー・エージェンシー。クライアントの作家を思いつくまま挙げてみると、フィリップ・ロス、ソール・ベロウ、ノーマン・メイラー、サルマン・ラシュディー、マーティン・エイミス、オルハン・パムクなどなど、まさに綺羅星のような、そうそうたる顔ぶれだ。(リストを見ると大江健三郎や村上龍がはいっているが、これは日本のサカイ・エージェンシーと提携しているので、著作の一部を預かっているため)

このアンドリュー・ワイリー、業界では「ジャッカル」とか「ダース・ベーダー」とかあだ名される辣腕エージェント。つまり著者にとっては強ーい味方だが、出版社から搾り取れるだけ搾り取る、アグレッシブなやり方で有名な、いや、悪名高き御仁。でも、やっぱりいい作家とってるもんね。無視するわけにもいかない。

ワイリー卿(と呼ぶとしっくりくる。下のリンク先のインタビューの写真を参照)、つい最近まで電子書籍に関しては我関せずといったそぶりで、母校のハーバード大学の卒業生ロングインタビューでもキンドルについて訊かれて、「まだ売上げ全体の4%にしかならんものに、96%の時間を費やしてあれこれ言ってもしょうがない」ってなことを(しゃーしゃーと)答えていた。しかも「いちばん大衆的でくだらないベストセラーから電子化されるだろうね。ジェームズ・パターソンなんかEブックで十分じゃないの? 誰もそんなの書斎に飾っときたくないだろうし」なんて暴言まで吐いてるのだ。

オデッセイ社のウェブサイトはとてもシンプルで、求める作品の電子書籍がすぐに購入できる。

オデッセイ社のウェブサイトはシンプルで、求める作品の電子書籍がすぐに購入できる。

ワイリーのクライアントである作家の電子書籍版権は、アンタッチャブルというか、出版社側は紙の本を出すときにもちろんEブック版権も付けてくれ、と申し出るのだが、それはダメです、渡せません、と言われてなす術がなかっただけで、Eブック版を放っておいたわけではない。だが、ワイリー卿ときたら、本当に自分のところでEブック専門出版社を作って、しかもその販売をする権利を、2年間の期限付きでアマゾンだけに譲渡という暴挙に出た。「オデッセイ」と名付けられたその出版社、名前にふさわしく今後数々の至難が待ち受けているんだろうなぁ。

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電子書籍は波紋を生む「一石」となる

2010年7月20日

posted by 松永英明(文士・事物起源探究家、絵文録ことのは

2010年7月8日~11日に開催された第17回東京国際ブックフェア。同時開催としてデジタルパブリッシングフェア2010なども開かれた。わたしが前回、東京国際ブックフェアに行ったのは2005年のことだから、5年ぶりの参加となる。その間、電子書籍の動向も大きく変化したように感じた。

5年前と今の電子本

電子書籍化の流れは前世紀末から始まり、今世紀に入ってから加速した。当初は各社がΣBookのような電子ブックリーダーを独自に開発したり、独自フォーマットを開発して「蔵衛門」などの専用ソフトウェアを売る、という方向性だった。しかし、特に独自の機械を開発したところは、残念ながらいずれも頓挫していった。一方、KeyringPDFを採用したパピレスは、ある程度汎用的なフォーマットを採用することで生き延びていった。

2005年のブックフェアではボイジャー社の無料公開セミナーを聴講した。ここで画期的だと思ったのは、ボイジャーの路線変更だ。独自ソフトT-Timeを開発していたボイジャー社は、T-Time5.5で大きく方向転換し、「液晶画面でjpg画像を表示できる機械ならどれでも電子本を読める」ようにした。携帯でもデジカメでもPSPでも読めるということで、デバイスの制約を取り払ったのである。それは確かに正しい方向だった。

しかし、それから約5年、電子本はなかなか広まらなかった。それが2009年からのKindle、iPadの衝撃で大きな変化が訪れたといえる。独自の電子書籍ツール開発競争は、アマゾンとアップルの二大巨頭がほぼ制覇したといえよう。一般ユーザーにとってのパソコンのOSがWindowsかMacの二択となった状況に似ているといえる。それにより、電子書籍のフォーマットも選択肢が絞られてきた。

そんな状況で、果たして紙の本はなくなるのか、電子書籍という黒船にどう対応するのかという話が盛り上がっている。2010年のデジタルパブリッシングフェアは、非常に重要なターニングポイントに位置しているといっても過言ではない。そこで大きな期待を抱いて、会場に向かった。

東京国際ブックフェア2010の会場となった国際展示場

東京国際ブックフェア2010の会場となった国際展示場

「本の消費現場で何が起きているのか」

午前中はシンポジウム「本の消費現場で何が起きているのか?」を聞いた。「読むことに関する環境の変化、消費現場の変化をどうとらえるか」をテーマにしたパネルディスカッションである(登壇者は以下の各氏。敬称略)。

・樺山紘一(印刷博物館館長)
・太田克史(編集者・星海社副社長)
・草彅主税(丸善お茶の水店店長)
・司会:仲俣暁生(編集者・「マガジン航」編集人)

樺山さんは歴史家として、星海社の太田さんは出版社の立場として、丸善の草彅さんは販売店の立場としての発言となる。詳細な内容は来年のブックフェア開催時をめどに出版されるそうなので、ここでは手元のメモ(by ポメラ)をもとに、特に電子書籍化に絡む部分について簡単にまとめておくとしよう(他の部分も興味深いので、ぜひ出版時には全文をお読みいただきたい)。

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