‘コラム’ カテゴリーのアーカイブ

電子書籍はなにを売るのか

2010年3月12日 金曜日

posted by 藤巻法明(印刷会社勤務)

〈あかんあかん〉〈なんぼええもん描いたってそないに売れるもんじゃない〉〈ええもんは一般の読者が買おてくれるなんて、そら夢みたいな話や〉〈貸本は最初から売本とは別のルートでまかれるんや〉〈書店には並ばへんのや。うちで出してるのは、あくまで貸本屋向けなんやで〉とは〈資金繰りのために次から次へと点数を出さねば会社はたちまちお手あげ〉な日の丸文庫社長の言葉だ(『劇画バカたち!!』松本正彦、二〇〇九年、青林工藝舎)。

老女が番をしていた古本屋の情景を思い出す。元々は貸本屋で、以前に貸していた漫画単行本が主な商品だった。この店で石森章太郎の『テレビ小僧』を小学生の私は買った。黄緑と橙の二色が目立つ表紙の青林堂版だ。

話は変わる。レコード業界も映像ソフト業界も出版業界も創作物を複製したパッケージ(レコード、ビデオ、本)を売ることで成り立ってきた。今ではレコードがCDにビデオはDVDへとパッケージは成り変わったが、本だけは成り変わらない。本には再生装置というハードが必要ないからだ。本は記録媒体であると同時に再生装置も兼ね備えている。しかし。ここ数年。本と同じように記録と再生の機能を持ったハードが発売。携帯電話もその一例だ。音楽や映像といった創作物はデジタルデータとしてインターネットを介したダウンロードもしくはストリーミングという方式で販売され、パッケージに依存した従来の方法は脅かされている。

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ジャパニーズ・ブックダム(仮称)計画案

2010年3月5日 金曜日

posted by 沢辺均(ポット出版)

※この記事はポット出版のウェブサイト「ポットの日誌」(2月22日)に掲載された「日本語の本の全文検索→一部表示サーバーをインターネット上につくる(仮称=ジャパニーズ・ブックダム)」という文章を改題して転載したものです。

日本語の本の全文検索
→一部表示サーバーをインターネット上につくる

何度か「ジャパニーズ・ブックダム」という計画をやりたい、と表明していたので、その具体的なことをできるだけ整理してみました。

「ジャパニーズ・ブックダム計画」は、日本で、日本語(ジャパニーズ)の本(将来は雑誌や電子書籍も)のインターネット上での全文検索を可能にし、検索されたページ=本の一部表示をするサーバー設置を、国立国会図書館と出版社の共同の取組みで実現しようというものです。

国立国会図書館 長尾真館長が、いわゆる「長尾プラン」を発表して、本を生業にしている出版業界、書店、取次、図書館、をはじめネットワークでさまざまな発言している人たちの間でも話題になりました。この構想は、国立国会図書館が、日本全国さまざまな地域に住む人たちに、ひとしく資料へのアクセスを提供するために、書籍を電子化し、利用者からの料金徴収をおこなうというものでした。

今日大きな話題になっている電子書籍の普及は、KindleやiPadを始めとした電子書籍端末と、端末で読むことのできる読み物(=書籍/コンテンツ)の提供という、二つのバランスによって大きく左右されると思います。

KindleやiPadが騒がれていますが、日本ではまだ「実験」や「挑戦」の状態のようです。ただし、この電子書籍は、デジタル/ネットワークがますます拡大し定着している中で、いずれ普及するのは間違いないと思います。そこで、それを活用した新たな出版状況、書籍の世界を豊かにする取組みを、できるところから進めたいと思います。

出版社の積極的な取組みで、本の全文検索→一部表示のデータベースサイト=「ジャパニーズ・ブックダム」の実現をその第一歩としたいと考えました。

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カタリココ、本の未来にむけての種まき

2010年2月22日 月曜日
posted by 大竹昭子(作家)

カタリココがはじまったのは2007年1月、西麻布のレイニーデーブックストアー&カフェでのことである。前年の秋だったか、片岡義男さんが日経新聞の文化欄に、こういうブックカフェが出来た、雨の日に朗読会をするのにぴったりだと書いていらしたのを読んだ。『スイッチ』『コヨーテ』の版元スイッチ・コーポレーションの地下にブックカフェが開いたのをそれで知った。

本が売れないだの、取次制度が悪いだの、出版点数が多すぎだの、絶版処置が早まっているだのと、本を書く者を不安にさせる話題ばかりで暗澹たる気持ちになっていた時期だった。だからと言って書くのを止めるわけにはいかない。ならどうすればいいかとつらつらと考えていた。

2009年6月20日、森岡書店にて堀江敏幸さんを招いた回の風景。撮影:山本寿人
2009年6月、森岡書店にて堀江敏幸さんを招いた回。撮影:山本寿人

さっそくそのカフェに出むいて本棚のある落ち着いた空間を目にしたとたん、愚痴っているよりこういう場所で元気の湧いてくることをしようと思った。文句や悪口を言うとエネルギーの出る人もいるけれど、私はポジティブなことにむかっていないと活力が出てこない。

ゲストを招いてトークと朗読の会をしてはどうだろうともちかけると、『コヨーテ』編集長の新井敏記さんも賛同してくれた。「朗読会」では古くさいので「語り」と「ここ」を結びつけて「カタリココ」と命名し、10回開催してインタビュー内容の一部を『コヨーテ』に再録、翌年からは都内の古書店とカフェに会場を移して継続し現在に至っている。2010年の今年も10回開催の予定だ。

本が売れないと言われるが、本当に本など必要ないと人は思っているのだろうか。私にはとてもそうは思えない。「本離れ」は望んでそうなったというより、さまざまな外圧に押された結果であり、DVDが普及したためにビデオが不要になったような状況とは根本的に異なるのだ。

若者のメインの楽しみが本と映画だったころはだれもが本のことを話題にした。読めなくても本が欲しかった。触れているだけでカッコいい時代だったのだ。ゲームあり、インターネットあり、各種のイベントありと選択肢の多い現代では、読みたい本を見つけるのは九十九里浜でコンタクトレンズを拾うようにむずかしい。

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アクセシブルな教科書としての電子書籍

2010年2月17日 水曜日

posted by ろす (08th Grade Syndrome)

はじめに

この度寄稿することになりました「ろす」と申します。Twitterでは@lost_and_foundというアカウントで呟いています。現在のところ職業は公にしておりませんが、出版業界の人間ではありません。08th Grade Syndrome というブログで、電子書籍に関する記事をネットユーザの視点で掲載しています。また個人的な興味から電子書籍の国際標準規格EPUBの仕様書を日本語訳して公開したりしています。仕様書は本稿の最後にリンクを貼っておきますのでそちらからご利用ください。

今回はそのEPUBに絡めて、アクセシビリティと教育に関するお話をしたいと思います。2010年1月にアップルが発表した電子書籍のオンラインストア iBookStoreの提供フォーマットにEPUBが採用され、この国際標準規格には大きな注目が集まっています。EPUBについてはしばしば「XHTMLとCSSファイルをZIPアーカイブにしたもの」として語られています。これは確かにわかりやすい表現ではありますが、私はこのことに複雑な思いを抱いてしまいます。現在EPUBではXHTMLで書かれた文書だけではなく、DTBookという形式で書かれた文書も扱うことができるようになっています。私はDTBookについて、とりわけ我が国ではもっと語られる機会が増えてもよいのではないかと感じています。

DTBook=DAISY 3=最新のアクセシブルなデジタル図書

DAISYという言葉があります。視覚障害やディスクレシア(識字障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)など、印刷された本を読むことが困難な人が利用できるように工夫されたデジタル録音図書を指します。DAISYは国際非営利法人DAISY コンソーシアムによって策定されています。

もともとはCD-ROMによる音声録音メディアという形態で提供されていたDAISY図書ですが、バージョンを重ねる中で音声データのほかにテキストデータや画像データも含むマルチメディアな規格として発展し、現在は健常者が普通の本のように読むこともできる、まさに電子書籍と呼ぶに相応しいものになりました。実は先ほど述べたDTBook(DAISY Digital Talking Book / DTB)はDAISY の最新のバージョンであるDAISY 3を指すものなのです。また、米国の標準規格として認証されたためANSI/NISO Z39.86という別名もあります。

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マクミラン対アマゾン、バトルの顛末

2010年2月3日 水曜日

posted by 大原けい(Lingual Literary Agency, NewYork)

1月29日の週末、何の予告もなしに米アマゾンのサイトから大手出版社の一つ、マクミランの本が急に買えなくなった(マクミランはドイツのホルツブリンクを親会社とし、傘下のインプリントには、一般書のセント・マーティンス、SF/ファンタジーのTor、文芸のファラー・ストラウス&ジルー、ノンフィクションのヘンリー・ホルトなどを持つ)。断片的な事実関係が明らかになるにつれ、キンドル版Eブックの価格を巡る争いが発端になっていたことがわかった。

アメリカで約2年前から発売になったキンドルは、パソコン画面よりも目に優しいEインク、パソコンにつながなくても1分以内に買ったタイトルをダウンロードできるG3ネットワーク、通信費はアマゾン持ち、などの理由で着実に浸透していった。読書好きの人にとって何よりも魅力的なのが、ハードカバーならどう安くても20ドルはする売れ筋の新刊の多くが、キンドル版なら本屋に足を運ぶこともなく即座に9.99ドルという値段で読めることだ。

ただしこれは、アマゾンがハードカバーを1冊売ったときと同じ売上げを版元に渡す条件だったので、キンドル普及のため、しばらく赤字大出血を覚悟でアマゾンが一方的に設定した値段だったことも確かだ。出版社側にとっては、ハードカバーが売れようが、キンドル版がダウンロードされようが、同じ売上げが懐に入ってくるのだから、アマゾンがどちらを売っても構わないように思えるかもしれない。しかしその一方で、自社のキンドル版Eブックの値段設定に対し、何の発言権もないこと、Eブックの値段に比べて、書店に並ぶハードカバーの新刊が割高に見えてくることを懸念していた。

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